浦沢直樹『MONSTER』を読んだ
浦沢直樹の漫画 『MONSTER』 (小学館ビッグコミックス)を今更ながら読んだ。

『MONSTER』(1994-2001) は、子どもの頃なぜか家に約半分の巻があったので一部は既読だった。面白いとは思ったが機会がないまま来て、10年以上ぶりにまだ読めないでいた後半の巻を読めた。
確かに面白いストーリーなのだが、広げすぎた風呂敷を雑に畳めた感じも強い。これは『MONSTER』以後の浦沢直樹についてよく言われることでもある。風呂敷を広げすぎたというより、なんなんだろう……。1つの事件が起きて、その事件が巨大な過去を抱えていたり多くの事件に派生したりしているため、物語としては長く複雑なものになっているが、結局のところ1つの事件が通過した。それだけの話にすぎない。その事件に関係したキャラクターたちは、物語の終わりで事件が終わって平和な生活に戻っただけで、何も変わっていない。
下世話なことを言えば、テンマとアンナ(ニナ)の関係はほとんど匂わせることすらせず、ただ異常な事件を通過した2人として終わる。テンマとアンナの年齢差を考えれば2人の恋愛を想像するのは中年男の醜い欲望の具現化みたいで逆に気持ち悪くもあるだろうが、かといってこの長大な物語において主人公たちの関係に何の変わりもないのもエンターテインメントの作法に反する。
もう1つ、明確な欠点がこの漫画にはあって、とある絵本作家の描いた絵本が物語中重要なギミックになっているが、その絵本がとてもつまらない。この絵本をはじめとするいくつかの要素が、ヒットラーや麻原彰晃のような稀代の「怪物(モンスター)」を作り出したのに、絵本のつまらなさが説得力を弱めてしまっている。(ヒットラーや麻原が本当にモンスター的存在だったと言えるかは自分には分からなくて、適当な例だが)
それでもこの漫画は抜群に面白いだけに、なんかこの漫画には物語の未来の形の1つを予感させる。ただ、その予感はまだ現実になっていないと思う。同じく浦沢直樹の『20世紀少年』も実家に途中まであったので部分的に既読だが、あれもよい部分も悪い部分も『MONSTER』。最後まで読まなくてもそう思わせる内容だったのだが、実際結末の評判を聞くとそうらしい。全部読まずに評判を信じるのはよくないけれど、これについては評判通りなんだろうと思う。
この予感の感触だけは覚えておかなくてはならない。この予感こそが『MONSTER』のほとんど唯一の価値なんだから。