『時計じかけのオレンジ』、ビディーしたよ

スタンリー・キューブリック監督の映画『時計じかけのオレンジ』(1971)、ビディー(視聴)したよ。ホラーショー(素晴らしい)だった。

時計じかけのオレンジ

時計じかけのオレンジ』は、かねてから Amazon ビデオのウォッチリストに入れていた。近くプライムビデオでの公開を終了するとあったのに気付いて、なんとなくその場で視聴し始めると面白くて、その日のうちに観終えてしまった。

これはいわゆるディストピアものの傑作、いや、怪作だと思った。その映像といい表現といいホラーショー(=素晴らしい)である。

この映画はいくつもの要素を抱え込んでいる:

  1. ファッショナブルでデカダンでパンクな、特異な近未来映像。『2001年宇宙の旅』で SF 映像の頂点を撮ったキューブリックならでは。
  2. 人間の本能に従った行為の醜さを代表するセックスとバイオレンスの映像。『時計じかけのオレンジ』で無限に続く性と暴力のシーンは視聴者に純粋な嫌悪感を抱かせるが、そういう意図の映像である。特に、主人公アレックスとその仲間たちが、とある夫婦の家を襲って、陽気に『雨に唄えば』を歌いながら強姦暴行していくシーンは非常に有名だが、このシーンのサイコパスな感じだけでもホラーショー、ホラーショー!
  3. 主人公アレックスが逮捕されてから、物語はずっと辛いものになる。罪を犯した主人公への罰。その罰はある意味で行き過ぎ、ある意味で妥当、ある意味で足りない。『レ・ミゼラブル』や『罪と罰』が描いたのと同じような物語であり、罰とは何なのかと思わせる。途中まで、アレックスはイエスをなぞっているかのように見える。だが、それだけでこの話は終わらない。
  4. 『時計じかけのオレンジ』にもう1つ有名なシーンがある。残忍な罪を犯したアレックスが「ルドヴィコ療法」という精神療法にかけられるのだが、それは1時間以上、椅子に拘束され、開瞼器で目をまばたきできないように無理矢理見開かせて、暴力的映像を見せられ続けるというものだった。その暴力的映像自体は視聴者にはほとんど見せておらずそのすごみは分からない。むしろ、アレックスが開瞼器により丸い眼球を露出させて拘束されているシーンの方を、視聴者は見せられて、気分が悪くなる。どんな言葉よりも雄弁に非倫理性を感じさせるシーンである。
  5. 出所したアレックスは、治療の結果、セックスやバイオレンスに及ぼうとすると強烈な吐き気がするようになっていた(そのときに観た映像のBGMが ベートーヴェンの交響曲第9 だったため、副作用として第9を聴いても吐き気を誘発した)。そして、「シャバ」で行くところ行くところ、物語の前半でやってきた悪行に対するひどい罰を受ける。だが、おかしいでないか? アレックスはすでに刑務所で罰を受けたのでは? 視聴者をそう悩ませたまま、物語はさらに先へ進む。
  6. 結末はネタバレになるので書かないが、ディストピアものらしい結末だ。ただ、繰り返し結末のシーンを観たんだけれど、どう解釈するかは一通りでない気がする。キューブリックは確かにそういう監督のはずである。

ていうことで、面白かった。ただ、この映画の物語にカタルシスは、一滴も、一瞬も、ない。キューブリックらしいこだわりしかない映像はすごいけれど、美しい映像ではなく嫌悪する映像。なので、また観ようとも思えないだろうし、ひとに薦めようとも思えない。

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