庄司創『白馬のお嫁さん』

庄司創の漫画 『白馬のお嫁さん』 全3巻を Kindle で買って読んだ。これは面白かった。

白馬のお嫁さん 1

この作品は、確か前に Web で話題になったことから Web 上の立ち読みを読んで面白かった。ただ、Amazon のレビュー数が特別増えていないのが気になって、買わないでいた。が、1巻が Kindle で無料になっていたので買って読んだら、やっぱり面白かったので、全巻を買った。

萩尾望都の SF 漫画みたいに、未来の話、遺伝子操作で「産む男」が現れて、彼らがお嫁さん探しをする物語である。男性器に近い変な性器を持ってはいるものの、産むことができる体質であるため、外見はほとんど女である(ただし胸は育ちづらいようだ)。女性漫画家が昔からテーマにしてきたセクシャリティ問題の作品の典型であり、どうも自分はこういうものが好きらしい。主人公は心は気弱だが外見はゴリラのような質実剛健の男・氏家清隆で、彼が3人(のちに4人)の「産む男」たちと同居するラブコメである。

白馬のお嫁さん 2

その設定だけで10点満点がとれるような作品で、読者はこの漫画をどうとでも読めそうだ。美少女たちとのハーレムラブコメとしても読める(美少女はみんな、ヘンリー・ダーガーの描く美少女のように、男性器の如き 竿 を有しているが)。 男の娘 萌えとしても読める(これが一番詐欺じゃなさそう)。主人公氏家清隆と「産む男」たちの ボーイズラブ としても読める(氏家の相手はみんな外見的に女だし、女に対して婚活を頑張っているが)。(竿を持つ)美少女たちが普通の女の子と恋愛しようとする 百合 としても読める(結局は氏家の物語になるが)。いや、本当はどれとしても読めない。

内容は、底抜けに明るい。「産む男」たちは、みんな可愛い( だが)。テーマは、抜群によい。作者の才能と技量は、そんじょそこらの漫画家とは比較にならない。ただ、これは結局、インテリジェントでスペキュレイティブな設定先行型の SF 連作短編集のように書かれている 。わたしは、この漫画を何よりも、一本の太い線が通った真剣な長編ドラマとして読みたかった。作者には明らかに能力があるので、次は長編らしいシリアスな長編を描いてもらわなくては。

白馬のお嫁さん 3

Web 上の感想を見ると、「打ち切りなんだろうけど、もっと読みたかった」という声が多い。その通りであって、『白馬のお嫁さん』が全8巻くらいまで続いて作者が情熱を注ぎ続けられたなら、この作品は漫画史に残ってもおかしくなかった。作者は男らしいけれど(参照:著者ブログ)、こんなセクシャリティ作品を男性が描いたということが珍しい。

この漫画に限らず、クリエイティブで面白いのにあまり評価されずに終わる作品がある。ちゃんとわたしたちは応援しないと駄目だね。

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