ムサヲ『恋と嘘』
ムサヲの漫画『恋と嘘』全12巻(正確には最終12巻は美咲編と莉々奈編に分岐分冊されており、全13巻)を読み終えた。

『恋と嘘』は、本作がアニメ化・実写映画化される前、Kindle で恋愛漫画を漁っている時期に何かで見つけて面白くて、新刊が出るたびに読み進めていた。最終巻が出たのでその日のうちに読んだ。正直、最終巻については賛否両論あると思う。
『恋と嘘』の舞台は、現代日本と少しだけ法律が違う世界である。遺伝子などの科学的調査に基づいて、結婚するパートナーを決める「超・少子化対策基本法(ゆかり法)」が制定されている。弱気で地味な主人公・ネジは、幼い頃から片想いしていた女の子・美咲がいる中で、別の女の子・莉々菜のパートナーに選ばれる。一種の許嫁ものだ。
男向け恋愛マンガにありがちなヒロイン同士のドロドロがない平和な三角関係ものとして、『恋と嘘』の物語は進んでいく。しかし、この女性作者の女の子を描く筆致は、男ほど欲望的でもなければ、女ほど現実主義的でもない。美咲は、ありがちな胸が豊かで性格がよい優等生の女の子キャラのようだが、何か秘密を持っている。莉々菜は、ありがちなよい家柄のツンデレ美少女キャラのようだが、学校では悪口を言われていて、コミュニケーション力に難がある。莉々菜は主人公への好意を持ちながら、主人公と美咲を応援する。三角関係というのはうまく描かれれば今でも面白い題材なので、『恋と嘘』は途中まで面白かった。
主人公たちのパートナー関係を支援する厚生労働省職員の大人・一条(女)と矢嶋(男)は、物語のいいアクセントになっている。二人は恋人同士だったが、ゆかり法の政府通知によって別れることになった。一条はパートナーの男と結婚して日々を過ごし、矢島もパートナーの女と結婚するが一条のことを忘れられず結婚生活は破綻した。つまり、主人公に対する予言的なポジションを担う。そのあと、矢島は何の因果かかなり年下の女の子に好かれるが、一条の方は幸せか分からないまま物語は終わる(これは一条が矢島を裏切ったことへの物語的復讐である)。
『恋と嘘』の最大の議論点は最終12巻で、美咲ルートと莉々菜ルートというマルチエンディング方式がとられている。わたしの意見を言えば、マルチエンディングはインタラクティブ性のあるゲームだから可能な表現であって、リニア(線形)な小説や漫画や映画には合わない。美咲編と莉々菜編で別々の本にすることで読者の選択を可能にしていると言えるが、わたしは『恋と嘘』という作品が面白かったからどちらも買ってどちらも読んだ。最後の1回の選択肢だけでヒロイン選択が分岐するようなノベルゲームが面白いだろうか? 1巻から11巻まで、主人公たち3人は必死で生きてきたはずなのに、最後に主人公・ネジが美咲と莉々菜のどちらを選ぶかは、外の世界の読者の自由に任せられる程度のものなのか? わたしは iPad を投げ出した。