『MOTHER2』
スーパーファミコンの RPG の1作である任天堂の『MOTHER2』(1994)を、今更ながら Nintendo Switch Online のサービスでプレイした。
『MOTHER2』というと糸井重里が作った RPG で、無類の味わいをもち、多くのファンを持ち、多くの影響を与えた作品として名高い。プレイしたが、実際これはゲーム史に残るべきだと思う。もちろんスーパーファミコンのドットは今となっては荒いし、そのゲーム性は今となっては古く遊びづらいものがあるが、それでもポップでアメリカンサブカルチャーなグラフィックは素晴らしいし、シナリオも、細かい楽しい仕掛けも、魅力的なキャラクターたちも、面白い。
1995年は日本文化にとって特別な年という印象で、オウム真理教事件と阪神淡路大震災があり、『新世紀エヴァンゲリオン』が放映され、Windows 95 が発売され日本でもパソコンとインターネットが流行り出したのである。その前年1994年に、この作品は発売された。そして『MOTHER2』の内容は、1995年という世紀末的悪夢の一年を先取りしている。
表面的なストーリーは、スティーヴン・キングやスティーヴン・スピルバーグのようなアメリカのノスタルジックな少年時代風景をオマージュした世界観上で、ハリウッド映画的な単純な「悪者をやっつけろ」展開のハッピーエンドで終わっている。だが、『MOTHER2』の終盤の物語の奥底には奇妙な味がしなかったか? 数人の子どもたちに世界の救済の全責任を担わせて、当たり前の顔をしている大人たち。喋るセリフだけ聞くとよいパパママのようだが、冷静に考えると異常なほど息子にドライな両親。肉体の死。スピリチュアルな「私」の救済と世界の救済の接続。現世に戻ったあと、主人公は数少ない心を通わせた仲間たちと別れて、ガールフレンドとすら別れてしまって、密かにプレイヤーに寂しい印象を残す。
ということで、『MOTHER2』は傑作だった。『ポケットモンスター』も『UNDERTALE』も『MOTHER2』の子である。何よりも『指輪物語』、TRPG の歴史から辿っていれば、『MOTHER』シリーズがハイファンタジーでも SF でもホラーでもない、ゆるやかな現代もの RPG としての新しい扉を開いた。