映画『リズと青い鳥』
山田尚子監督の京都アニメーションによる映画『リズと青い鳥』(2018)は、2018年、映画館で上映されたときに観て、感動した。残念ながら当時わたしが書いた感想は、今はもう残されていない。
それから数年たって、2022年初頭。富野由悠季作品を追いかけようとしてバンダイチャンネルを登録していたところ、『リズと青い鳥』が配信されていることに気付いて、久しぶりに観直すことができた。「『リズと青い鳥』は観直すような映画じゃないと思うけど。試しに開いてみよう」と、その程度の気分だった。しかし映画館のときのように、息を潜ませて最後までベッドで MacBook Pro の画面を観た。
『リズと青い鳥』は、京都アニメーションによるTVアニメ『響け!ユーフォニアム』(2015-2016)の続編というか、スピンオフ的な映画作品だった。『響け!ユーフォニアム』は武田綾乃による小説を原作としていて、京都の高校の吹奏楽部をテーマにしている。わたしは『リズと青い鳥』を映画館で観たあと、遡るようにTVアニメ版を配信で観た。TVアニメ版もよかった。原作小説も読んだ。
『リズと青い鳥』も武田綾乃の原作をもとにした『響け!」シリーズのストーリーだが、TVアニメ版『響け!』とスタッフが少し違う。TVアニメ版は石原立也監督、花田十輝脚本、池田晶子キャラクターデザイン、山田尚子シリーズ演出となっている。『リズと青い鳥』は、山田尚子監督、吉田玲子脚本、西屋太志キャラクターデザインとなっていて、京都アニメーションの前作映画『映画 聲の形』(2016)と同じ布陣。
大今良時による漫画原作『聲の形』は好きだったから、山田尚子監督の『映画 聲の形』も当然観ていた(映画館で観たのか配信で観たのか、もう覚えていない)。山田尚子監督と京アニスタッフによる映像はいつものようによかった。丁寧に作られた映画化だった。でも、絶対原作を読んだ方がいいと思った。原作は微妙なバランス感覚で、善悪を線引きしたくなる問題をうまく塞いで主題を展開しているが、映画にはそれが失われている。
『リズと青い鳥』は繊細で美しく、女子高生たちが吹奏楽に打ち込み、悩み、愛したり嫌ったりする日々を描いている。不純物は何も含まない。すべてを1つのテーマに向けて収束させている。微妙な日常音や声の演技にこだわって表現している、その細やかさは、アニメでは空前であり絶後だろう。本物の傑作だと思う。
劇中劇の童話「リズと青い鳥」部分だけは、クオリティに疑問符がつく。劇中劇のリズ・少女の演技は、明らかに棒。対比するように、本編の声優たちによる演技は、鈴のように心に響く。
アニメというのはよくも悪くも、記号化された表現をしてきた。『リズと青い鳥』は記号化される前の自然な表現を取り戻してみせた。豊潤な表現がぱっと花開いた。視聴者は画面を注視して感動して、そして物語は終わる。