映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』第1部、観た
村瀬修功監督の映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』第1部 (2021) は、COVID-19の影響で何度か延期したが、2021年6月11日に公開された。YouTube ガンダムチャンネルで事前に観られる冒頭15分ほどの映像を観たところ、単純な1ガンダムファンとして素直に本編が楽しみになった。なので公開をずっと待っていて、今日 (6/13) 観に行った。
まずは、『閃光のハサウェイ』のバックグラウンドを説明する。
ガンダムの生みの親である富野由悠季は、1988年、ガンダムシリーズとしては初の劇場新作アニメである『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)を制作した。今観ても『逆襲のシャア』の作画やキャラクターデザインはよいが、富野らしい歪んだ物語構成のせいで話が分かりづらい。ともかく、『逆襲のシャア』の結末で、ファーストガンダムからの主人公アムロ・レイとそのライバルのシャア・アズナブルはついに舞台から消えた。そして『逆襲のシャア』の劇中で少年として登場して、重要な役割を果たしたサブキャラクター、ハサウェイ・ノア。彼が主人公になった続編が、1989年の富野による小説版『閃光のハサウェイ』(1989)である。
正確には小説版『閃光のハサウェイ』は、アニメ映画版『逆襲のシャア』の続編でなく、富野による小説版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』(1988)の続編である。『ベルトーチカ・チルドレン』は、アムロの恋人がまったく別のキャラクターになっているなど、映画版『逆襲のシャア』といくつか話が異なっている。元々富野が書いた『逆襲のシャア』の草稿は『ベルトーチカ・チルドレン』のストーリーだったが、周りにシナリオの変更を求められて今の映画版のシナリオになった。一方で小説版は元の草稿に基づいている。ただ、映画版『閃光のハサウェイ』は映画版『逆襲のシャア』のストーリーに基づくように適合させているらしいので、『ベルトーチカ・チルドレン』は気にしなくてよい(わたしは昔読んだけど)。
原作の小説を書いたのは富野由悠季だが、映画版『閃光のハサウェイ』に富野はまったく関わっていない。監督は村瀬修功で、『機動戦士ガンダムF91』の作画監督、『新機動戦記ガンダムW』のキャラクターデザイン、『機動戦士ガンダムUC』の原画・絵コンテなどをやってきた。脚本はむとうやすゆきで、『機動戦士ガンダムUC』の脚本もやってきた。
『UC』(小説版2007-2009、OVAアニメ版2010-2014)は、富野ガンダムのフォロワーである福井晴敏による小説を原作として、古橋一浩を監督として、映像演出の容赦ないパワーで視聴者を殴りかかってヒットした。『UC』を面白く観た人は『閃光のハサウェイ』も面白く思えるだろう。映像演出がよいから問答無用で面白いんだ。『UC』と異なるのは、原作が福井でなく富野であるため、よくいえば本物の富野の匂いがするが、悪くいえば富野の癖の強いシナリオを見せられる。
本作は3部作のうちの第1部なので、話としては全然終わっておらず、評価しづらい。しかし、1ガンダムファンとして面白かった。ただ、ヒロイン・ギギの心理動向は分かりづらいというより、もう無茶苦茶で失敗している。富野の原作小説のうち映画第1部にあたる箇所を読んでみたが、ギギの心理の不自然さは、富野のいつものひどい部分が出ているだけで、原作から変わっていない。だとしても、映画化にあたってそれを修正し切らなかったのは監督・脚本の選択でもあり、賛否両論になるだろう。
ガンダムファン以外が楽しむような映画ではないし、新規性も特別ない。ガンダムファンというのは業が深い。