H・P・ラヴクラフト
概要
H・P・ラヴクラフトは、アメリカの怪奇小説作家(1890/8/20 - 1937/3/15)。「クトゥルフ神話」といわれる独自のホラー世界観を築き上げて、現在に至るまで数多くの二次創作(フォロワー)を生んだ。
創元推理文庫の『ラヴクラフト全集3』所収の「資料:履歴書」より:
わたしが大好きな作家は──ギリシアとローマの古典の作者と十八世紀イギリスの詩人や随筆家は別として──ポオ、ダンセイニ、マッケン、ブラックウッド、M・R・ジェイムズ、ウォルター・デ・ラ・メア、そういったタイプの作家です。幻想とは別に、わたしは小説におけるリアリズムを好んでいます──バルザック、フローベル、モーパッサン、ゾラ、プルーストといった作家です。
著作
以下、作品名の後ろのカッコ内は執筆時期 / 発表時期。
- 「ダゴン」(1917 / 1919)
- ラヴクラフトの最初期の非常に短い作品。アメリカのパルプマガジン「ウィアード・テールズ」のデビュー作でもある。
- すでにラヴクラフトらしさが入った作品でもあるし、海洋で漂流したときの恐怖体験というホラーのイマジネーションも悪くなく(これもポーの影響といえばそうだろうが)、(ネタバレになってしまうが)作中末尾の「窓に! 窓に!」は日本のインターネットサブカルチャー上でも有名となっている。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集3』、新潮文庫の『狂気の山脈にて』など。
- 「ニャルラトホテプ」(1920 / 1920)
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集5』、新潮文庫の『インスマスの影』など。
- 「エーリッヒ・ツァンの音楽」(1921 / 1922)
- 珍しく音楽を題材にした、といってもやはりラヴクラフトらしい怪奇小説である、好短編。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集2』、新潮文庫の『狂気の山脈にて』など。
- 「アウトサイダー」(1921 / 1926)
- 短編。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集3』など。
- 「クトゥルフの呼び声」(1926 / 1928)
- ラヴクラフトの代表作の1つであり、「クトゥルフ神話」の世界観を確立させた短編(クトゥルフ神話の作品自体は「ダゴン」なども含まれているとされるので、本作がはじめてではない)。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集2』、新潮文庫の『インスマスの影』など。
- 「ピックマンのモデル」(1926 / 1927)
- 短編。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集4』、新潮文庫の『狂気の山脈にて』など。
- 「未知なるカダスを夢に求めて」(1927 / 1943)
- ラヴクラフトの代表作の1つとされる中編。ランドルフ・カーターものの1つ。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集6』など。
- 「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」(1927 / 1943)
- ラヴクラフトの代表作の1つとされる長編。
- 読んだが、完全に覚えていない。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集2』など。
- 「宇宙からの色」または「異次元の色彩」(1927 / 1927)
- ラヴクラフト自身が評価している SF 風ホラー短編。
- 面白かった。侵略もの SF として普通に傑作で、本作で描かれる地球外生命体の畏怖のビジョンは、スタニスワフ・レムの『ソラリス』(1961)に地続きであり、1927年作と思えない。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集4』、新潮文庫の『インスマスの影』など。
- 「ダンウィッチの怪」(1928 / 1929)
- ラヴクラフトの代表作の1つとされる短編。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集5』、新潮文庫の『インスマスの影』など。
- 「闇に囁くもの」(1930 / 1931)
- ラヴクラフトの代表作の1つとされる短編。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集1』、新潮文庫の『インスマスの影』など。
- 「狂気の山脈にて」(1931 / 1936)
- ラヴクラフトの代表作の1つとされる長編。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集4』、新潮文庫の『狂気の山脈にて』など。
- 「インスマウスの影」(1931 / 1936)
- ラヴクラフトの代表作の1つとされる中編。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集1』、新潮文庫の『インスマスの影』など。
- 「時間からの影」(1935 / 1936)
- ラヴクラフトの代表作の1つとされる中編。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集3』、新潮文庫の『狂気の山脈にて』など。
- 「闇をさまようもの」(1935 / 1936)
- ラヴクラフト最後の小説。
- 未読。
- 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集3』など。
書籍
創元推理文庫『ラヴクラフト全集』
東京創元社なので、優れた編纂。ただ、そうはいっても古い本であるため、翻訳の古さが足を引っ張っている。また、執筆・発表順でも、かといって関連性の深い作品ごとにグループ化されているというほどでもなく(一応、ランドルフ・カーターものをまとめていたり、科学志向の強い作品をまとめていたりするが)、恐らく商業的理由で良作を分散させるような編纂をしている。全集として執筆・発表順で並んでないというのは、ほとんど致命的ではある。
3巻以降は大瀧啓裕の翻訳に統一されており、これも今となっては多少古い。ただ問題は1巻の大西尹明、2巻の宇野利泰による訳で、これらはさすがに古すぎる。せっかくだから大瀧訳で統一しないのかな。
星海社FICTIONS『新訳クトゥルー神話コレクション』
星海社ということから分かる通り、若いオタク向けに新訳の「クトゥルフ神話」を提供しようという試みだと思われる。翻訳は森瀬繚。
本屋で眺めた感じだと、ブックデザインと翻訳がどうも好きになれなかった。
- 『クトゥルーの呼び声』: ダゴン、神殿、マーティンズ・ビーチの恐怖、クトゥルーの呼び声、墳丘、インスマスを覆う影、永劫より出でて、挫傷。
- 『「ネクロノミコン」の物語』: 無名都市、猟犬、祝祭、ピックマンのモデル、『ネクロノミコン』の歴史、往古の民、ダンウィッチの怪異、アロンゾ・タイパーの日記。
- 『這い寄る混沌』: ナイアルラトホテプ、這い寄る混沌、壁の中の鼠、最後のテスト、イグの呪い、電気処刑器、墳丘(雑誌掲載版)、石の男、蝋人形館の恐怖、闇の跳梁者。
- 『未知なるカダスを夢に求めて』: 北極星(ポラリス)、白い船、サルナスに到る運命、ランドルフ・カーターの供述、恐ろしい老人、夢見人(ドリーマー)へ、ウルタールの猫、セレファイス、忘却より(エクス・オブリビオン)、イラノンの探求(クエスト)、蕃神、アザトース、名状しがたいもの、銀の鍵、霧の高みの奇妙な家、未知なるカダスを夢に求めて(ドリーム=クエスト)、銀の鍵の門を抜けて。
新潮文庫『クトゥルー神話傑作選』
ついに新潮文庫からラヴクラフトが出た。南條竹則訳。
第2集『狂気の山脈にて』も出たことでかなり傑作とされている作品を含められているが、それでも「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」はない。
- 『インスマスの影』: 異次元の色彩、 ダンウィッチの怪、クトゥルーの呼び声、ニャルラトホテプ、闇にささやくもの、暗闇の出没者、インスマスの影。
- 『狂気の山脈にて』: ランドルフ・カーターの陳述、ピックマンのモデル、エーリッヒ・ツァンの音楽、猟犬、ダゴン、祝祭、狂気の山脈にて、時間からの影。