「エモい」について
1 エモいとは何か?
「エモい」という単語は、emotional つまり「感動的な」から来ている。Wikipedia はコラムニストの荒川和久の記事を参照して、次のように記している:
元々は音楽のジャンルの一つである「イーモウ(Emo)」からきており、メロディアスで哀愁的な音楽性と切ない心情を吐露する歌詞が特徴的なロックミュージックを指す。音楽シーンでは1980年代から使われていた。
この話にエヴィデンスはないが、わたしの曖昧な過去の記憶・印象とも合致している。近年、音楽以外の物事に対して「エモい」という形容詞が使われ出した。この単語についてより詳しく調べると、誰が広めたとかこういう意味合いだとか書かれているが、信頼性は分からない。
エモとエモーショナルは違う。感動的な映画はエモーショナルであっても、エモくはない。だが、映画作品の下に幾重もの製作のコンテキストが乗っていて、そのコンテキストがエモくさせることがある。一言で言ってしまえば、エモいとはメタエモーショナルなのだろうが、こういう表現は言葉遊びでしかない。
「昨日のあれはエモかった」と言うことはできるが、それを説明するのは野暮だし難しい。人はそれぞれの偽神を持ち、それらは必ず対立してしまうものだが、エモい瞬間だけ協調する奇跡がある。それがエモの正体である。アメリカの小説家レイモンド・カーヴァーの短編では、登場人物たちの地味な生活の中に一瞬訪れる調和しない精神の奇妙な交わりが描かれる。
エモは偶然の事象だから、人為的に起こそうという誘惑は危険を伴う。他人の神を操作したり、自分の神を押し付けたりできるとまで思うなら、おこがましい。