エドガー・アラン・ポー概要エドガー・アラン・ポーは、アメリカの短編小説家、詩人、文芸評論家、編集者(1809/01/19 - 1849/10/17)。小説家としては、推理小説、SF、幻想小説、怪奇小説の各ジャンルにおいて開祖またはそれに近い影響を与えた。詩人としては、フランス象徴派のシャルル・ボードレールなどに影響を与えたとされる。短編小説「メッツェンガーシュタイン」(1832)ポーの小説における処女作とされる(1832年1月)。ポーらしいゴシック・怪奇小説。今手元にないので詳しくは調べられないが、創元推理文庫の『ポオ小説全集1』は「壜の中の手記」から始まって「ベレニス」「モレラ」「ハンス・プファアルの無類の冒険」……と続いていく。『ポオ小説全集』はてっきり発表順に並んでいるものだと思ったが、この順序は発表順ではない。むしろ『1』の後半にある「メッツェンガーシュタイン」が一番最初に発表された短編小説のはずである。岩波文庫の『黄金虫・アッシャー家の崩壊』によれば、訳者の八木敏雄はこう言っている:「処女作にはその作家のすべてが含まれている」とは誰が言いだした神話かは知らないが、この神話をエドガー・アラン・ポオ(1809 - 1849)にあてはめるなら、ポオはまさしくゴシック作家であった。生涯に七十篇あまりもの短篇小説をものしたポオは、次のような小品を『サテデー・クーリア』に発表することでその作家的経歴を始めた──「メッツェンガーシュタイン」(1832年1月)、「オムレット公爵」(同年3月)、「エルサレムの物語」(同年6月)、「息の紛失」(同年11月)、「ボン=ボン」(同年12月)の五篇である。これらはみなポオの処女作といえるだろう。確かに Wikipedia で見てもはじめて発表された短編小説は「メッツェンガーシュタイン」になっている。いつの世にも、恐怖と宿命は大手を振ってまかり通っていた。となれば、これから語る物語の時代を特定する必要がどこにあろうか? ちょうどそのころ、ハンガリーの奥地では、輪廻転生(メテムサイコーシス)に対する信仰が隠然たる勢力を有していたと言えば足りよう。(八木敏雄訳)「ボン=ボン」(1832)ポーらしい笑劇(ファース)。「壜のなかの手記」(1833)ポーの海洋冒険小説の1つ。「ベレニス」(1835)ポーの「美女再生譚」もの(ゴシック小説)の1つ。「モレラ」(1835)これも「美女再生譚」ものの1つ。「ハンス・プファールの無類の冒険 」(1835)気球で月まで行くという、今からら考えれば荒唐無稽かもしれないが、当時からすれば一種の最初期の SF 冒険小説。「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」(1837)ポーの海洋冒険小説の1つであり、ほぼ唯一の長編。メルヴィルやジュール・ヴェルヌに影響を与えたとされている。「リジーア」(1838)ポーの「美女再生譚」ものでも最も有名な作品。「アッシャー家の崩壊」(1839)ポーのゴシック怪奇小説の中でも代表作。「ウィリアム・ウィルソン」(1839)ドッペルゲンガーものの怪奇小説の代表的な作品。「群集の人」(1840)奇妙な味の短編であり、その現代性から評価が高い。「モルグ街の殺人」(1841)世界最初の近代推理小説とされる。本筋の物語に入るまでの、ポーらしい長口上に注目。「メエルシュトレエムに呑まれて」(1841)海洋冒険小説ものの短編。「エレオノーラ」(1841)これも「美女再生譚」。「赤死病の仮面」(1842)かなり短く整った、ポーのゴシック怪奇小説の代表作。「落とし穴と振り子」(1843)奇妙な味のホラー。「黄金虫」(1843)暗号ものの傑作。「黒猫」(1843)ポーの、現代ものの怪奇小説の代表作。「ウィリアム・ウィルソン」や「告げ口心臓」と同様に、秘匿していた主人公の罪が因果応報的に明かされるパターン。「盗まれた手紙」(1844)推理小説。よくできているが、ポーのほかの推理小説と同様に、やはり推理小説の構成がまだ確立されていない時代に書かれたために、推理小説的な盛り上げ方がうまくできていない。ただポーは、いつものようにポー流の書き方をしているだけではある。書籍創元推理文庫の『ポオ小説全集』全4巻、『ポオ詩と詩論』ポーの小説がすべて読める。翻訳は玉石混交で古い。カバーデザイン、ハリー・クラークの挿絵、2巻目のボードレールの解説、4巻目の江戸川乱歩の解説などもよい。ただ、東京創元社にしては、作品の順序の意図がつかめない。全体としてはおおよそ発表順なのだが、謎のシャッフリングが行われている。『ラヴクラフト全集』の方は、細かく代表作を各巻に分けようという商業的意図が分かるが。まだ全部読めていない。岩波文庫の中野好夫訳『黒猫/モルグ街の殺人事件』(表題作のほかに「ウィリアム・ウィルソン」「裏切る心臓」「天邪鬼」「マリ・ロジェエの迷宮事件」「盗まれた手紙」)、八木敏雄訳『黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇』(表題作のほかに「メッツェンガーシュタイン」「ボン=ボン」「息の紛失」「『ブラックウッド』誌流の作品の書き方/ある苦境」「リジーア」「群衆の人」「赤死病の仮面」「陥穽と振子」「アモンティラードの酒樽」)、加島祥造訳『ポー詩集 対訳』八木敏雄訳はよい。中野好夫訳は未読だがさすがに古いと思われる。光文社古典新訳文庫の小川高義訳『黒猫/モルグ街の殺人』(表題作のほかに「本能vs.理性」「アモンティリャードの樽」「告げ口心臓」「邪鬼」「ウィリアム・ウィルソン」「早すぎた埋葬」)、『アッシャー家の崩壊/黄金虫』(表題作のほかに「ライジーア」「ヴァルデマー氏の真相」「大渦巻への下降」「群集の人」「盗まれた手紙」、詩「大鴉」「アナベル・リー」)詩が含まれているのは特殊。創元推理文庫も岩波文庫も別冊で詩は出しているが。未読なので翻訳の質は知らないが、新しい訳だし悪評も聞かない。新潮文庫の巽孝之訳『ポー短編集I ゴシック編』(「黒猫」「赤き死の仮面」「ライジーア」「落とし穴と振り子」「ウィリアム・ウィルソン」「アッシャー家の崩壊」)、『ポー短編集II ミステリ編』(「モルグ街の殺人」「盗まれた手紙」「群衆の人」「おまえが犯人だ」「ホップフロッグ」「黄金虫」)、『ポー短編集III SF&ファンタジー編』(「大渦巻への落下」「使い切った男」「タール博士とフェザー教授の療法」「メルツェルのチェス・プレイヤー」「メロンタ・タウタ」「アルンハイムの地所」「灯台」)未読なので翻訳の質は知らないが、新しい訳だし、訳者には評論家としての業績がある。Amazon レビューでは悪評もあるが、あまり信用できない。